SPECIAL INTERVIEWー理学療法士が社会的に飛躍し、よりよい社会を創造していくためー

SPECIAL INTERVIEWー理学療法士が社会的に飛躍し、よりよい社会を創造していくためー

理学療法士が社会的に飛躍し、よりよい社会を創造していくため

日本理学療法士連盟 顧問(前会長)
田中 まさし 先生

現在、日本の医療・介護において何が問題となっていますか?

少子高齢化で労働者人口が減少していく中で、将来、高齢者1人を現役世代1.2人で支える時代が到来し、医療にかかる財源が増えていくものの、それを支える人がいないという課題が指摘されています。そのため、医療や介護のサービス提供範囲の縮小やサービスの質が低下してしまうことが懸念されています。少子化の改善、働き手の増加による財源確保の見通しが立たない状況にあるなか、医療保険や介護保険ともにその持続可能性が難しいと言われています。

社会が高齢化すること自体は大きな問題ではありませんが、高齢者が元気に自分の生活を営める健康な状態をいかに保っていられるかということが問題で、理学療法士には健康寿命をいかに延伸するか、高齢者をシームレスに支える多職種連携をコーディネートする役割が求められています。また、厳しい財源の中ではただ単に「健康指数が改善した」ということではなく、主体的・能動的な生活行為の維持とともに、健康寿命や医療費にどうやって寄与できるかということをセットで考えていかないといけません。

財源の問題は理学療法士にどのような影響があるのでしょうか?

来年年秋には消費税が10%に上がる予定であり社会保障財源が増えることとなっていますが、この増税では十分な財源が確保されるわけではなく、根本的にはさらなる増税か税収が増えないと財源確保は難しいとされています。このような中、医療や介護の分野においては、各職種や各種サービスにどのように財源を配分していくかということが注目されていて、効果の明確なものに対してより多く配分することが今年の報酬改定で強調されました。この方針は今後より一層顕著になっていくものと思います。

過去の医療費の内訳で、リハビリテーション関連報酬はおおむね医療費全体の2.5%とされてきましたが、現状は5%近くにまで増えて約2倍になっています。これが大きな問題だと指摘されることがありますが、理学療法士がこれまで急性期から早期に関わって二次障害を予防し、回復期では速やかにADLを回復させて在宅に戻し、通所機能や訪問によって地域で支えていくことが政策として誘導されてきました。速やかな在宅復帰を進めることに寄与した結果において、財源支出の倍増が問題であるとの指摘は矛盾していると思います。医療・介護財源枠に上限がある状況にあって特定分野(職種)への支出が増えることは、どこかの分野への支出が減ることとなりますので、減額される職種やさらに増額を望む職種は政治的発言や働きかけをすることとなるでしょう。

中央社会保険医療協議会(中医協)、介護給付費分科会などでの議論、そして各省庁を絡めた各種業界団体の政治的な力や交渉で財源配分が大きく左右されることは否めません。どの専門職にあっても自らの業務が国民の健康や生活を支えているとの認識はあるでしょうし、自らの待遇や生活を守り向上させたいと思うことは当然のことです。ですから、各専門職団体は政治的プレゼンスを高め、望む方向へ政策を誘導させようとするのは普通のことなのです。我々そして国民生活にとって望ましいと考える医療や介護、保健などのサービスを提供する政策へと誘導し財源を確保するためには、理学療法士を国政に送り、その者が代弁者として国政の場で主張をしていく必要があります。

臨床で働く理学療法士にとってどのような課題があるのでしょうか?

今回の診療報酬改定、介護報酬改定に至る議論において、適切な評価によるプランの見直しが適宜行われておらず、漫然とした理学療法が行われているのではないかと指摘されています。データヘルス、すなわち対象・方法・結果を随時検証して、効果的な理学療法を確実に提供するように、障害や生活が改善した理由を明確にするよう政策誘導されることとなりました。 このことは根拠に基づいた効果判定が行われる理学療法でなければ、いずれ報酬額や保険適応の面で相応の判断が下され かねないことを意味します。すべての理学療 法士が適切な評価に基づいて一定の理学 療法を行えるよう、団体や職場において継 続的な研修と啓発が求められています。

現行の施設基準は部屋の広さ、スタッフ数など全体としての提供体制や設備要件で定められており、理学療法士の技術や質に応じた要件とはなっていません。また、「誰が行っても同じ報酬」であれば、継続的な研鑚や賃金(昇給)などにも悪影響を及ぼすことが考えられます。専門職の倫理観・公共心に大きく依存しすぎる制度となっているのではないでしょうか。臨床で努力されている皆さんはこのことをどのようにお考えでしょうか。生涯学習などによる知識や技能の研鑚などを踏まえた施設基準や報酬のあり方について、広く検討して質の向上が促される制度を目指していくべきではないでしょうか。また、より精度の高い評価、効果の高い介入を体系化していき、理学療法の基準点数に加点されるような仕組みを作っていくことも新しい技術・能力開発、スキルアップにつながっていくのではないかと思います。

理学療法士が社会的に飛躍するためにはどのようなことが必要でしょうか?

理学療法士が介入することで筋力、基本動作能力といった指標だけではなく、社会的な指標を意識して、効果を出していく必要があると思います。例えば、地域包括ケア病棟では在宅復帰率、在宅生活維持率などを要求されますので、理学療法士の介入方法によってこれらの指標をいかに改善できるかを示していく必要があると思います。そして、理学療法士の専門性を発揮しうる公共政策を提言できる基礎研究である政策研究が広く行われることが望ましいですね。

財務省や厚生労働省が出す資料、経済財政諮問会議や未来投資会議で議論される資料を見ていると、いずれにしても医療費を削ろう、介護給付費を削減しようとするものが多数みられます。実績指数としてのFIM(Functional Independence Measure)の向上は周知のとおりですが、それ以外にも回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟における在宅復帰率、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションにおける在宅限界点、要介護度や生活満足度など、国や行政が政策誘導を行う上で活用しうる指標にも関心を持っていただきたいと思います。そうすることで理学療法士の介入方法や研究の方向性も変わってくるかと思います。また、日本理学療法士協会、都道府県理学療法士会は社会的な動向、求められている社会的な指標や効果について会員へ研修などを通じて周知し、すべての理学療法士がそれらのことを踏まえた上で対象者の身体機能や基本動作、ADL能力の改善を図っていく必要があると思います。

最後に若い理学療法士へのメッセージをお願いします。

まず、理学療法士は「行きたいところへ行けるようにする」、対象者に対して移動能力の維持・向上を担う専門職種であることを常に考えていただきたいです。そして、トピックスに飛びつくのでなく、理学療法の基本的な評価と介入ができるようになってもらいたいですね。可能であれば、急性期から生活期を一通り経験し、リスク管理も含めた基本的な理学療法をどのような場面においても対象者に提供できるようになってほしいです。いずれ在宅での急性期対応ができる理学療法士が求められてくると思いますから。

現在、回復期リハ病棟だから回復期だけをやっていれば良いということではなく、5年先の医療提供体制を考慮して、今、必要なこと、将来必要なことを同時並行して勉強していっていただきたい。

いずれマネジメントをする能力が求められていくと思います。地域包括ケアや今後展開されるオンライン医療では多職種連携は必須です。そこで理学療法士が主体的な役割を担っていくためには多職種全体を見渡すことと多職種を調整する力が必要になります。皆さんが社会から求められる役割を自覚し、地域を支えていくための準備をしていただきたいですね。

(この記事はHPTA NEWS One Step254 に掲載されました)

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