【対談】糖尿病の理学療法ー糖尿病治療において理学療法士にできること、期待されることー

【対談】糖尿病の理学療法ー糖尿病治療において理学療法士にできること、期待されることー

「食事療法」「運動療法」「薬物療法」を三本柱とする糖尿病治療において、「運動療法」とそこに関わる理学療法士の役割は重要度を増しています。今回、米田先生には糖尿病専門医として、河江先生には理学療法士であると同時に日本糖尿病理学療法学会運営幹事として、それぞれの立場から、糖尿病治療の現在と最先端について、さらに糖尿病治療における運動療法・理学療法士の現状と展望について、大変興味深いお話をうかがうことができました。

インタビュアー:日本の糖尿病の現状を教えてください。

米田:5年おきに実施されている厚生労働省の国民健康栄養調査によると、2017年の調査では「糖尿病が強く疑われる人」はおよそ1,000万人といまだに増加傾向ですが、「糖尿病の可能性を否定できない人」いわゆる「糖尿病予備群」も1,000万人であり、こちらは2007年の調査をピークに、以降は減少傾向です。これには特定健康診査や特定保健指導が一定の効果を示しているのではないかと考えられます。

インタビュアー:理学療法も含めてどのような治療法があるのか教えてください。

米田:糖尿病治療は「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の三本柱。食事と運動が基盤で、薬物は食事と運動が上手くいかない人にプラスする治療法です。たとえば欧米人の場合、2型糖尿病はその多くが「肥満型」ですが、日本人は6割程度が痩せ形の「非肥満型」で、インスリンの分泌が低下するアジア型。肥満と非肥満では根本的な病態が違うので薬も違ってきます。食事療法は基本的には肥満にも非肥満にも必要です。運動療法はというと、肥満と非肥満に同じ運動でいいのかという議論は今まであまり考慮されず一律な運動療法を提供してきたと思うので、これからどうするのかなと。日本の高齢者の糖尿病には肥満型はそれほど多くはなく、痩せ形の高齢者はむしろサルコペニアが心配されます。相手をよく見て個々に応じた治療が必要という点では、日本人の方が欧米人に比べて治療が難しいと思います。

インタビュアー:糖尿病理学療法学会の活動を教えてください。

河江:2013年に糖尿病理学療法学会は日本理学療法士学会の分科学会として設立されました。その後、2015年には日本医師会、日本看護協会など多職種・多団体からなる糖尿病対策推進会議に加盟することができました。その他、年2回の学術集会開催や診療報酬獲得に向けた調査・研究に取り組んでいます。

米田:学会認定の資格はないのですか。

河江:日本理学療法士協会の「認定理学療法士(代謝)」があります。

米田:それは大事ですよね。目的がないとモチベーションにつながらない。まず診療報酬。次がキャリアアップ。つまり学会が認めてくれるスキル。糖尿病専門資格にメリットを与えるのは大事だと思います。

インタビュアー:米田先生の立場から、理学療法士に対して思うことを教えてください。

米田:運動療法のニーズが高まったのはおそらく「糖尿病療養指導士」という制度ができた頃。しかし、栄養士による食事療法は「食品交換表」がどんどん改訂され進んだのに対して、運動療法には診療報酬がないために、なかなか広まりませんでしたよね。ドクター側からすると、食事療法と同様に運動療法をお願いしたいのですが、人数が限られている理学療法士に、診療報酬が取れない糖尿病運動指導に時間を割いてもらうわけにはいかない。でも最近になって、高齢者の筋力・筋肉量低下の予防、いわゆるサルコペニア防止などがうたわれるようになったことから、運動療法が見直されています。今広大病院で河江先生が取り組んでいることはおそらく最先端だと思います。たとえば網膜症の患者さんに処方できる運動療法。網膜症の合併のある患者さんにも、それに適したふさわしい運動療法があるはずだと。動作解析にも取り組んでいますよね。

河江:そうですね。糖尿病にはいろいろな合併症があるので、重要視する動作は、脚だけではなく視覚も。糖尿病は網膜症にも関わるので、影響を検証している段階です。

インタビュアー:糖尿病の先端的な治療、進んでいることがあれば教えてください。

米田:広大病院が取り組んでいる最先端治療の一つが、消化器外科による肥満の減量手術。胃を細く切ることによってわざと食べられなくして減量する方法です。今のトピックは腸内細菌ですね。腸内細菌は糖尿病と非糖尿病、肥満と非肥満でも違います。面白いのは、一卵性双生児は母親の産道を下りてきて生まれたときは腸内細菌が全く一緒ですが、その後、成長して違った環境の中に身をおくと、腸内細菌の組成が変わってくることが知られています。つまり、食生活など環境の変化によって腸内細菌が変わり、肥満や糖尿病につながる可能性がある。逆に言うと、腸内細菌の種類を変えることによって、肥満や糖尿病を予防したり治療したりできる可能性があるということですね。

インタビュアー:糖尿病に対する理学療法士の課題はありますか。普及も含めて。

河江:やはり卒前卒後教育。卒前教育に関わるのは難しいですが、広大病院ではセラピストを育てる教育プログラム(研修療法士制度)を実施していて、僕も平成27年度に理学療法士協会から研究助成を受けて、座学およびOn the Job Trainingも含み、およそ一カ月で終了できる教育プログラムを「糖尿病理学療法基礎プログラム」として冊子にまとめました。理学療法士に最低限必要な糖尿病の知識を得てもらうのが目的で、プログラム前のアンケートでは「理学療法士に何かできることがあると思うか」という質問に対してほとんどの人が「どちらともいえない」と回答していたのが、プログラム終了後は7 割くらいの人が「とてもそう思う」と回答してくれました。

米田:広島県では医学部があるのは広島大学ただ一つであり、そのため糖尿病専門医の数も限られます。県内には瀬戸内海の島々から中国山地の山間部まで広範囲にわたって多くの糖尿病患者さんが存在しています。できることなら、県内の隅々まで、糖尿病の専門医を派遣したいのですが、残念ながら糖尿病患者数に対して、専門医の数が圧倒的に不足していて、県内の各地には専門医のいない空白地域がたくさんあります。じゃあどうすればいいかというと、その解決のキーワードは「遠隔医療」と「デリバリー医療」。広島にいながら山間部や島しょ部の先生と、今流行のIoTなどを使ってどのような処方や検査がいいのかを伝える。確か、広島県では一部の地域で、栄養士のデリバリーが始まっていると聞いています。栄養士のいない施設やクリニックに栄養士が訪問し、そこで栄養指導や食事療法を提供するそうです。これを運動療法でもできないかと。どこか中央の拠点に所属している糖尿病の運動療法に詳しい理学療法士を、県内の至る所に派遣するのです。このデリバリーシステムができれば画期的ではないかと。中央と地域の連携はこれから必要。食事療法や運動療法を、広島県内で格差なく受けられるようになればいいですね。広島のオリジナリティー、広島大学ならではの医療を実現できたらいいよね。

河江:そうですね。研究環境に恵まれていますので、これからもどんどん米田先生に指導していただきたいと思います。

※インタビュアー

公益社団法人 広島県理学療法士会 広報局 会員情報部長 猪村 剛史

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