SPECIAL INTERVIEWー神経筋疾患患者へのエビデンスに基づく理学療法の確立とその普及を目指してー

SPECIAL INTERVIEWー神経筋疾患患者へのエビデンスに基づく理学療法の確立とその普及を目指してー

神経筋疾患患者へのエビデンスに基づく理学療法の確立とその普及を目指して

独立行政法人国立病院機構 広島西医療センター
佐藤 善信

神経筋疾患患者に対する理学療法士の役割

私は2010年に現職場である独立行政法人国立病院機構 広島西医療センター (以下、西医療センター)に入職しました。西医療センターは、広島県難病医療拠点病院の指定を受けており、難病患者が多く入院されていますので、入職直後から筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症等の神経筋疾患患者に関わる機会が多かったです。さらに、脳性麻痺児(者)を中心に、人工呼吸器管理下にある重症心身障害児(者)に理学療法を提供する機会もあります。どの養成校も同じかと思いますが、卒前教育の中で、難病患者への理学療法について学ぶ時間は、他の疾患と比較すると決して多いとは言えません。

そのため、入職直後は、自分自身の介入方法について振り返ることも多く、上司や先輩にいろいろと相談するだけでなく、既存のガイドラインや厚生労働省 調査研究班の報告を見て勉強しました。 その中で、長期的にみると緩やかに悪化の経過を辿る疾患であっても、呼吸理学療法を含めた多職種による包括的ケアによって一時的には呼吸機能が改善する等、理学療法士の介入が重要な役割を果たすことを実感できました。疾患の進行により歩けなくなったとしても、車いすの調整ひとつで、移動の自立に微力ながら貢献できた時は、歩けなかった人が歩けるようになったのと同じような感覚を覚えます。最近では、小学生の頃から関わっている方が、大学に入学し一人暮らしを始めることができました。そういう瞬間に立ち会えることで、たくさんのやりがいを感じる毎日を過ごしています。この感覚はおそらく、どの疾患の方に関わるとしても、共通していることだと思いますし、それこそがリハビリテーションの原点だと思います。

理学療法士としてのやりがいを感じる一方で、疾患の進行による無力感を感じます

神経筋疾患患者に関わるにあたって、自分自身の介入によって一時的であれ機能もしくは日常生活能力の改善に繋がったときは嬉しいです。しかし、神経筋疾患の多くは、現代医学では長期的には悪化することを避けられません。目に見えて悪化していく中で、その方の目標をどう設定するか、これは非常に大事なことです。自分が関わったことで呼吸機能が改善した、気管切開までの期間を延ばすことができた、車いすで過ごす時間を延ばすことができた等、患者や家族と感動を共有しつつも、長期的には悪くなってしまうのが現状です。入職して何年も経ち、多くの神経筋疾患患者を担当してきましたが、このような瞬間に理学療法士としての無力感を感じます。その中で、補装具の選定や管理、ポジショニング等、神経筋疾患患者へのチーム医療における理学療法士の役割をきちんと全うすることがとても大事だと思います。

神経筋疾患患者に対する呼吸理学療法のエビデンスを構築していきたい

入職して3年が経った頃から、神経筋疾患患者に対する呼吸理学療法の効果をテーマに研究活動にも取り組んでいます。学生の時に教員から理学療法を考える上で、臨床、教育、研究が大事だということをよく耳にしていたため、就職後、自然と研究に興味を持つようになりました。

神経筋疾患患者に対する呼吸理学療法の介入は、排痰の促進や咳嗽力の向上などを目的としたコンディショニングが一般的ですが、まだ他の分野と比較してエビデンスが乏しいのが現状です。いろんな研究方法がありますが、私は目の前にいる患者の治療に直結するような、できるだけ日々の臨床に役立つような研究をすることを意識してきました。研究を始めた当初は、研究を行う仲間は多いとは言えなかったため、多くのことを手探りで行いました。 その中で、学生時代には真剣に学んでこなかった研究の本を読み勉強しました。幸い、上司や先輩、後輩にも恵まれたこともあり、拙い研究ではありますが今ではいくつかの研究成果を報告できるまでになりました。 その中で、神経筋疾患であっても、救急蘇生バックを用いて肺に空気を送り込むような呼吸理学療法介入を行うことで、一時的には呼吸機能が改善したり、改善はしないまでも低下を遅らせることが可能だとわかりました。一般に、神経筋疾患の方はどうしても悪化の一途をたどるイメージがあると思いますが、自身の研究を通して、適切な介入をすれば一時的にでも改善することがわかりました。神経筋疾患に対する呼吸リハビリテーションでは、多職種が連携を密にして行う包括的ケアの重要性が少しずつわかってきています。医学の進歩も相まって、以前は20歳で亡くなるのが一般的であった疾患も、包括的ケアによって生命予後が大きく変わることも明らかになっています。

しかしながら、まだ研究が盛んな領域とは決して言えず、もっとデータの蓄積が必要です。研究が盛んでない要因として、神経筋疾患を専門とする病院は少ないことが挙げられます。そのため、神経筋疾患患者へ関わることの多い我々には、今行っている介入が患者の生活をより良いものにできているのか否かについて検証する責任があると思います。

地域の中で質の高い理学療法を実践できる人材が必要です

神経筋疾患は経過が非常に長い疾患であり、在宅でのケアはとても重要です。在宅で生活される神経筋疾患患者はどんどん増えています。もちろん設備の関係もあり、質の高いケアを在宅で行うことは難しいこともあるでしょう。神経筋疾患専門の病院に勤める理学療法士としては、少しずつ効果が示されつつある呼吸理学療法の具体的な技術を、在宅生活を支える立場にあるスタッフにきちんと発信していくことで、地域を含めた理学療法全体の活性化に繋がれば良いと思います。在宅で関わられているリハビリスタッフとのネットワークについて、現在は各個人の努力によって成り立っているのが実情であり、体系的なネットワーク作りは今後の課題です。在宅生活の質を向上させるには、医療スタッフはもちろんのこと家族の理解と家族によるケアが重要です。そのため、自宅でのストレッチ方法や排痰補助装置の使用、さらには救急蘇生バックを用いた呼吸理学療法の技術指導等、家族との関わりはとても大事にしています。

楽しいと思える範囲で継続することが大事です

病院で臨床業務を行いながらそれ以外の活動を行うことは容易ではありません。私の場合、病院から研究活動に使える時間を保証されているわけではないため、当然帰りが遅くなる日もあります。中にはそんな中なぜ臨床以外の活動に時間を割くのか疑問に思う人もいるかもしれませんが、いざやってみると楽しいこともたくさんあります。学生時代に「理学療法士は一生勉強し続けなければならない」と言われて育った方も少なくないと思いますし、私自身その言葉は間違っていないと思います。忙しい臨床現場に勤めながらこれから新たな活動を始めようと思う方がいれば、ぜひ楽しいと思える範囲で継続することをお勧めします。患者に運動指導を行う時、多くの理学療法士は運動を少しでも継続できるように「無理しない範囲でコツコツやりましょうね」と指導するでしょう。私は、我々の生涯学習も同じだと思います。私自身まだまだ課題は山積みですが、少しでも神経筋疾患患者に満足してもらえるものを提供できるよう、後輩の指導にも力を入れながら頑張っていきたいと思います。

ページトップ