SPECIAL INTERVIEWー障がい者スポーツを通した共生社会の実現ー

SPECIAL INTERVIEWー障がい者スポーツを通した共生社会の実現ー

障がい者スポーツを通した共生社会の実現

広島大学大学院医歯薬保健学研究科
前田 慶明

患者さんの『走りたい』に応える

私が障がい者スポーツに本格的に携わるようになったのは、前職の兵庫県立総合リハビリテーションセンター(以下、兵庫リハ)から広島に移ってからです。兵庫リハ時代に出会った患者さんが、障がい者スポーツに関わる私の原点です。当時、兵庫リハでは切断の患者さんを中心に診ていました。その中で、大腿切断となった、ある患者さんが、『走りたい』と私に訴えたのです。当時は、そんな知識を持ってなかったため、上司や義肢装具士などいろんな人に話を聞き、必死にその患者さんへの治療を行いました。その当時、一緒にジャパン・パラリンピックの観戦にも行きました。すると、今度はスノーボードをしたいと言い出されたのです。やはりスポーツの力はすごいですね。その後、その方の思いや期待に応えるため、義肢装具士さんと義足の調整を行いました。患者さんの熱い思いに応えるため、試行錯誤しながら学んでいったこと、その経験が広島に来てからの活動に繋がっています。

その後、縁あって広島大学で教員として仕事をするようになりました。広島に来て、ある出会いを通して、再び障がい者スポーツに関わらせていただく機会を与えていただきました。どの分野もそうでしょうが、やはり障がい者スポーツの世界でも、人との縁がとても重要で、その方に「広島で障がい者スポーツに関わりたいです」と挨拶に伺ったところ、いろいろな競技に顔を出すきっかけを作ってくださいました。それからは、必死にいろいろな競技大会に顔を出して勉強しました。私の中で大事にしていた思い、それは「理学療法士として・トレーナーとしてという前に、一人の人間としてこの分野に携わっていきたい」ということでした。だから、ボランティアスタッフとして携わらせていただく機会も多かったですし、最初の頃は駐車場の誘導係もやりました。このような活動の中で、障がい者スポーツの運営に携わることができたことはとても貴重な経験でした。今でももちろん時間がとれるときにはボラン ティアや運営スタッフとして顔を出すようにしています。その中で、最近では有難いことにトレーナーとしてお声かけいただく機会も増え、現在は、シッティングバレーボール、ボッチャ、アーチェリーなどいろいろな競技に参加し、選手のサポートを行っていますし、シッティングバレーボール女子日本代表のトレーナーとしても活動する機会をいただいております。

東京オリパラを通して共生社会の実現

2020年の東京オリンピック・パラリンピック (以下、東京オリパラ)開催は、障がい者スポーツの世界にとって追い風だと思います。東京オリパラの開催が決まって、国内ではこれまでにない勢いで、ヒト・モノ・カネが動いています。世界の注目を浴びることもあり、障がい者の視点に立ったインフラ整備も加速するでしょう。実際に、障がい者スポーツ関連の地方大会に参加していても、東京オリパラの開催決定による熱を肌で感じることができます。私自身、選手が頑張っている姿を間近で見ていますので、選手には東京オリパラの舞台でもちろんメダルを獲ってほしいですね。メダル獲得を実現できるよう、理学療法士として・トレーナーとして全力でサポートをしていきたいです。

一方で、私が最も注目しているのは、東京オリパラ後にこの国がどうなっているのか、つまり障がいを有する方に対して国や人々が持つ視点の変化についてです。東京オリパラは、文字通り祭典です。その祭典の企画・運営・参加・応援を通して、障がい者スポーツへの興味・関心だけでなく、病気や怪我など何らかの理由によって障がいを有することになった方々との『共生』が当たり前の社会になればと願っています。例えば、ドイツでは子供の頃から地域のどこにでもあるような施設で障がい者と一緒に普通に卓球を楽しんでいます。日本であれば障がい者とスポーツを行うとなると、構えてしまう傾向が強いと思います。友人とスポーツをすることは当たり前のことですよね。そんな感覚でみんなが何かを普通に楽しむ、そこに障がいの有無は関係ない、東京オリパラ後には、そんな共生社会が実現されていることが大事だと思いますし、そんな社会の実現に少しでも力になれればと思っています。障がい者を取り巻く環境に関しても、中国の障がい者スポーツ選手はプロとして給料をもらっていますが、日本は到底そのような状況ではありません。このような障がい者スポーツを取り巻く環境にも変化があるといいですよね。

コーディネーター役としての理学療法士への期待

理学学療法士は、障がい者スポーツの現場において、治療を通して専門性を発揮していける存在であることは言うまでもないと思います。その他にも、いろんな方同士のコミュニケーションを円滑にできるコーディネーターとしての役割も大きいと思っています。実際にコーディネーターの役割を果たすことができるようになるには、多くの経験が必要だと思いますが、スポーツ現場では医学的知識を持った職種である理学療法士への期待の大きさを感じることは多いです。

未来の理学療法士に向けて

広島県理学療法士会の会員で、障がい者スポーツに携わりたいと思う方がいれば、まずはそのスポーツをやってみてください。そうすれば、なぜその部位が痛いのか、痛みを和らげるにはどうすればいいのかを理解でき、介入のヒントになります。また、広島県には障がい者スポーツの分野で根強くやってこられた方がたくさんいます。私が今こうしていろんな障がい者スポーツの分野で仕事ができるのも、そういった多くの方々のご支援があったからです。興味があれば、まずはそのような方々にコンタクトをとり、話を聞いてみてください。そういった熱意があれば必ず素晴らしい出会いが待っていると思います。 今は大学の教員として、障がい者スポーツの現場に学生と行くこともありますが、必ずそのスポーツを体験するように伝えています。広島大学や県立広島大学の学生は障がい者スポーツに熱心に参加していると感じています。教員として、長い間学生と過ごしていて思うのは、どのような形であれ、障がい者スポーツに携わってきた学生は、臨床実習に行ってからの患者さんに接する態度や学ぶ姿勢などが大きく違うということです。もちろん、学生たちが就職して臨床現場へ出ていくときに全員が障がい者スポーツに関わるわけではないと思います。ときには、まったく違う分野へと羽ばたいていく学生もいます。その時に、学生の頃に経験していたことが役に立たないのではなく、「障がい者スポーツに関わった経験が、今、目の前にある医療にどう活かせるか」、そのような考えになれることが大事だと思います。これからの私の仕事としては、選手のサポートはもちろんですが、私がこれまで築いてきた知識や人間関係を、私よりも若い世代にどう繋いでいくか、そういった人財育成も重要な仕事だと感じています。

広島県理学療法士会としての障がい者スポーツへの関わり

最後に、個人レベルでもそうですが、広島県理学療法士会という職能団体として、障がい者スポーツに関わっていくことはとても重要だと思います。病床の機能区分が進み、病院や施設内だけでは、長期的に関わっていくことが難しく、障がい者スポーツまで支援できない患者さんも少なくないと思います。そのような時に、個人の思いだけではできないことも、職能団体としてならできることもあるでしょう。もっと言えば、障がい者スポーツを取り巻く環境を良い方向に変えるためにも、職能団体として理学療法士の持つ専門性を適切な場でしっかりと発信していくことが必要だと思います。

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